第二幕

爽やかな朝が来た

今日も今日とて、世界の動乱など全く関係ないかのように平和なセルムラント


・・そして今日も、いつものように騎士団の早朝集会が開かれ・・ちょうど終わった所だ


皆が解散してもその場に立ったまま眠っているシオン

それに気づき、ユーリィが彼を揺り起こす


「・・やぁ・・おはようユーリィ」

「そのあいさつはさっき済ませましたよ・・・ふわぁぁぁぁぁ・・・・・」


寝ぼけ眼のシオンだが、ユーリィもいつものように無理矢理起こされたクチだった


「・・じゃ・・あたしもう少し寝てます・・・」

「何なら僕もご一緒しましょうか?」


シオンがふっ・・と笑うと、顔を真っ赤にしてユーリィは走り去ってしまった


「照れ屋さんですねぇ・・♪」


寝癖のたった頭をかきながらあくびをして・・・シオンも自室に戻る事にした

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あれから二日、シオンはすっかり騎士団にとけ込んでいた

ラウルに鎧も修理してもらって万全だが、残念ながら直ったのは肩鎧だけだった(笑)

他は損傷が激しくて無理だ、という事らしい


道行く女性に声をかけまくるシオン、しかし誰も悪い思いはしていなかった

それほどまでに彼は二枚目だったのだろうか(汗)


彼の来訪で以前にも増して平和な雰囲気が漂いはじめたセルムラント

しかし・・・


誰の考えも及ばない所で、事態は動き始めていた


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第二幕・・「CREST KNIGHT -紋章騎士の復活・後編-」

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ユーリィはドアを叩く音で目をさました

眠い目をこすってベッドから起きると、ゆっくりドアの前に立つ


「ふわぃ・・誰ですかー・・・?」


がちゃ、とドアが開いて・・マントを羽織り、初めて会ったときの姿のシオンがそこに立っていた


「ユーリィ、よければ朝食でもどうでしょう?」

「ええ・・いいれふよぉ・・・」

「着替えでも手伝いましょうか?」

「ううん・・・それはさすがに遠慮しまふ・・・」


そう言うとユーリィはゆっくりドアを閉じ、つかつかとベッドに戻って着替えを始める

・・シオンさんって、やっぱり変わったひとだなぁ・・・・


これまでの日常にそういう存在がいなかった事もあるが、あれは異常だ

この城だけでも女性は80人はいるが、恐らく彼は全てに声をかけて、全員を味方につけているだろう

・・もちろん騎士団や他の男にも親切で、紳士的な物腰の彼はすっかりもてはやされていた


・・おかげで、ぽつんと物陰に忘れ去られている男が一人

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「・・あの男が来て二日・・・・どうも私の存在感が薄くなったような気がする・・(汗)」


元々ろくに実力を披露する事もなかったうえに、プライドのせいで高圧的な態度をとる事の多いレスト

・・一応王からは騎士団長に任せられたが、今の彼はさほど重要でもないような立場にあった


「・・・・そうだな・・私の実力を知らしめればよいのか」


レストは月一回の闘技大会のポスターを見て、満面の笑みを浮かべていた

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シオンとユーリィは街の大衆食堂にいた

昨日は彼女以外の救護士達もいたのだが、今日は時間がズレたせいか姿を見かけない


「シオンさんってパン好きなんですね?」

「まぁ・・・旅のうえで一番お世話になるのは、こういう携帯食ですから」


そう言ってまた、いつものように微笑んだ

その時・・なぜか彼女はシオンのペンダントが目に入った

四角い鎧に似た材質で包まれた、宝石のような綺麗な石のついた大きめのペンダント


「シオンさん、コレって・・」

「ああ、これは・・「お守り」なんですよ」


首から外して、その「お守り」を見せてくれた

ユーリィは手にとったその石を色々な角度から眺めている


「へぇ・・この石、正面から見るとヘンな模様が見えますね?」

「ああ、それは・・」


シオンが解説しようとした矢先、入り口のウエスタン風のドアが勢いよく開いた!


「シオン!勝負だ!!」


レストだ・・またしてもシオンの言葉を遮って・・・

しばし静まりかえる食堂の人々・・しかし、すぐにまた元のがやがやと声が聞こえる賑やかな場所に戻る


レストはシオンを指さしながら言う


「明日正午より月一の闘技大会が開かれる!そこで勝負だ!」

「ヤです」


もぐもぐとジャムトーストをほおばりながら、シオンは一言そう言い放った


「ぬわぁぁぁぁにぃぃぃっっ!?」


だん!とテーブルを叩いて、シオンににじりよるレスト


「臆したか!?・・騎士団の一員としてその実力の程を計ってやろうと言うのだ!なぜ参加しない!?」

「・・僕の剣は盗まれちゃってますし、それに僕元々争いは好まないんですよ」

「ほう・・・だが、大会は姫様が大変楽しみにしておられる催し・・残念だな、お前にとっては絶好の機会だろうに」

「ならば参加しましょう」


一言即決で、シオンは参加を決めてしまった

城中の女性に話しかけた彼だが、残念ながら姫にだけは会えなかったのだ

当の姫は彼に会いたがったらしいが、王は彼が信頼にたる人物か信用していないらしい

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「・・だって・・ナンパしてたんだぞ?」


王はシオンがメイドを口説いているのを見て、頭を抱えてしまっていた

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食事の後・・ユーリィに連れられてシオンはラウルの工房を訪れていた

・・代わりの剣を借りようと思ったらしい

だが、始終を聞いたラウルは一言だけ彼に言う


「悪いがその中ににゃ、あんたに使える剣はないぜ」

「ど、どうしてなのラウル!?」


ユーリィが怒ってつっかかるが、ラウルはそれを制すると言う


「手を見ればわかるさ・・あんたの腕は本物だ・・俺の腕ももちろん本物だが、残念ながらあんたの方が上手らしい」


ラウルはそう言いながら笑う・・・・とても彼が10才くらいの少年には思えないほど、自信過剰な台詞だ

やがて彼はカウンターから取り出した、小さな包みをシオンに渡した


「あんたに合う「長剣」は作れないが「短剣」くらいならなんとかなるぜ」


シオンは包みを開き、手にした短剣を3回振ってみて・・・にこりと笑った


「ありがとう・・これなら心強い・・」

「気に入ってもらえりゃ幸いだ・・・闘技大会、レストのヤツに負けるんじゃないぞ?」

「そういえば・・団長って強いんですか?」


シオンは思い出したように聞く


ラウルとユーリィは目をぱちくり、として・・


「知らない」


揃って答えた

哀れ認知度の低い男、レストよ・・

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「ブラスさんはレストの事知ってる?」

「はて?レストラン?・・・食事はとったばかりですぞ・・?」


・・ダメだこりゃ・・


城に戻るなり気になって聞いてみたユーリィだが、サイブラス・・このご老人には聞くだけ無駄のようだ(汗)

回廊で司書を口説いていたシオンを引っ張ってくると、その旨を伝える


「・・わからない・・か」

「その前に闘技大会は計5回戦もあるんですよ~?・・大丈夫ですか、シオンさん・・」

「なんとかなるよ、多分」

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というワケで翌日の闘技大会一回戦・・

シオンは言葉の通りに、一回戦を早速勝ち抜いていた

・・攻撃を一切せず、相手をリングアウトさせるという一瞬の動きで・・


「勝者・シオン!!」


わぁぁぁぁ・・と歓声が起こり、シオンはマントを翻しながらリングを降りる

降りてきたシオンにユーリィとラウルが駆け寄った


「あんなにあっさり勝てるのか!?・・次は剣使ってくれよな!」

「すごいです、華麗な身のこなしでしたよシオンさん!!」

「いや~・・ありがとう♪」

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観客席には王と姫の姿もあった

・・王は真剣に試合を見守っているが、なぜか姫の方は不服そうな顔をしていた


「どうした?リオ・・」


リオ・・「リオミア=フェイル=セイリアム」は王の言葉も耳に入らないほど、先ほどの試合が気に入らないらしい

・・・どんな強者かと期待したのに、逃げ回るだけか?・・つまらぬ・・


シオンに期待したのは、試合をあっと面白いものにしてくれると思ったが故だった

・・しかし・・どうもシオンの戦い方は気に入らないらしい


二回戦、三回戦と勝ち抜く彼の姿を見ても、いまいち面白くないリオ姫

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「天より来たる・・疾駆の雷!」


レストは初級の法術と、噂に違わぬ・・ホントにスゴイ剣術とを用いてシオンと同じ所まで上り詰めた

・・すなわち・・決勝戦の舞台へと・・である


「法術使っていいなんてルール前回大会ではなかったハズ・・」

「一定以上のダメージを与えなければいいんだとさ」


※ちなみに法術は単語をつないで完成する呪文によって発動する

例:天より来たる・疾駆の・雷

組み合わせ次第で威力や効果も変わってくるという、結構場当たり的な要素が多い能力である


・・・リングに上るシオンとレストを見守る観衆

レストはシオンを睨みつけ、シオンはレストににっこりと微笑む


「剣を抜け!」

「・・しょうがないですね、決勝戦ともなれば」


今まで剣を抜かずに戦ってきたシオンだが、ついにラウルの短剣を使う気になったらしい


「始め!」


かきぃぃ・・!!


出だしからいきなりリングのど真ん中で鍔迫り合いを始める二人

短剣でレストの長い剣を上手く受け止めている


「受け身はいいが・・防戦主体では俺に勝てんぞ!!


勢いよく押された瞬間シオンはバックステップに移り、レストの一太刀をかわす


「さすがは団長・・お強いですね!」


シオンも短剣の軽さを利用して、レストの射程を外れて流れるように斬り込んでいく

再びレストの剣と交錯し、鎧に弾かれ、それぞれの攻撃を互いにかわす・・


リオ姫もこの勝負には思わず席を立った


「なんだ・・やるではないかあの男!!」


火花散る剣と剣のぶつかりあい

確かにレストの剣術は華麗だったが、それと短剣で対等に渡り合っているシオンもまた華麗な戦いを披露していた

一瞬の隙も、応援の声が入る隙もないような勝負はしばらく続く・・


しかし・・やがてレストが奇策に出た

剣を交錯させたまま、突然左手を剣の握りから離し・・


「貫きし雷光の・・一閃!」


シオンの腹部に、一瞬の閃きが突き刺さった

高圧電流・・すさまじいショックが彼の身体を襲い、地に膝をつかせる


「うあっ・・・・」

「勝負あったな!」


レストが剣を突きつけ、勝利宣言をしようとしたまさにその瞬間・・

にわかに闘技場の外が、騒がしくなってきた


「魔物の群れが街に突っ込んでくるぞ!!」

「何っ・・!?」


レストもシオンも、参加者達も手を止めて・・闘技場の入り口に視線を集中する


突進してくる黒い影・・闘技場の入り口が破壊されるのが見えた


「あれが魔物というヤツか・・?」

「ええ・・団長、見たことないんですか?」

「実際目にするのは初めてだ」


呆然とした様子でレストは答えた

レストが剣を降ろすや否や、シオンはその最初に姿を現わした魔物に突っ込んでいく


「グォォォォゥゥ・・!」


猛獣のような雄叫びをあげて、熊のように大きな魔物が観客に襲いかかろうとしている

その脇を駆け抜けて、シオンは短剣を振るった


音は聞こえない・・・だが、今にも観客に伸ばされそうだった魔物の腕が寸断されて宙を舞う

魔物は当然のようにシオンに目標を変えてきた


「グゥゥ・・・ッ!!」


マントを翻らせ、シオンは短剣の平面を利用して反対側の腕をかわす


「君・・お友達も連れて来てるんだね」


シオンはちょっと困った顔をして、闘技場の向こうに目をやった

同じような魔物が十数匹、街の通りを占拠している

・・幸い、人が襲われている様子はないが・・果たして建物がいつまで保つか・・


「セルムラント騎士団!突撃!!」


レストの叫びが聞こえると、大会に参加していた者を含め騎士団の大半がそこに集結した

レスト、客席にいたサイブラス達、サイドでシオンの応援をしていたユーリィも後方支援のためについていく


「やれやれ・・」


しかし入り口がこの一匹に塞がれていてはどうしようもない

シオンはため息をつくと、魔物の腕を大振りの斬撃で上へと弾いた


「永久の眠りを・・災厄の業火!!」


一瞬にして、魔物は炎に巻かれる

断末魔の咆吼をあげて・・そのまま、いくらかの黒い塵を残して燃え尽きた


「お・・お前法術使えたのか!?」

「ええ・・そうですけど?何か不備でもありますか、団長?」

「何故俺との戦いで使わなかった!?今ほどなら俺を楽に倒せただろう!!」


シオンは眉を下げて、言った


「・・そんなことしたら団長・・跡形もなく燃えちゃいますよ?・・いやぁ、僕って手加減知らないもので・・」

「・・・そ、そうか・・ならいいんだが」


まだ燃え残っている魔物の塵を見て、背筋が寒くなるレスト

騎士団一同はそのまま入り口を抜け、街の中で暴れる魔物に攻撃を仕掛ける

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ユーリィはしばし立ち止まって、シオンの様子を見る


「シオンさん・・・団長に受けた法術のダメージ、回復しますよ」

「いや・・実を言うとアレ、ダメージ受けてないんですよ・・お芝居で。」

「え?」

「対抗呪文を寸前に唱えたから、ノーダメージです」


シオンは確かにピンピンしている

・・・どうやら、本気で戦っていると思ったのも「ただの演技」らしい


「さて、それじゃ街の方も片づけますか・・・・ユーリィ、後ろはお願いします」


にこっ・・と笑って、シオンは風の如き勢いで駆け出す


「あ、ま、待って・・」


よろけて、どべっ・・と顔面から倒れるユーリィ

顔をあげた時にシオンの姿は、遙か彼方にあった

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騎士団は精鋭の言葉に違わぬ戦いぶりで、次々と異形の魔物を倒し、打ち破っていく

負傷者はすぐに救護士が治療し、法術士達の術で離れた位置にいる敵を攻撃し・・

初陣とは思えぬチームワークで、敵の数は次々減っていった


・・しかし・・


「ギャォォォォ・・・・・ゥ」

「で・・でかいのが来るぞっ!!」


とんでもなく大きな二足歩行の怪物・・飛びかかった騎士達もその巨大な腕に弾かれて、救護士がフル動員されても治療が追いつかなくなっていく

剣は岩のように堅い筋肉に阻まれ、法術はその意味を成さず、周囲がガレキの山と化していく・・!


「他の魔物をお願いします・・あれは僕が。」

「シオン!お前の力でも無理だ!」


シオンの周囲に、一陣の風が吹き荒れた

止めようとしたレストも立ち止まり、彼をその先へ行かせてしまう


「俺に任せろ」


・・俺?・・


後ろ姿が彼のものとは違って見えた

シオンの姿は確かにあの優男のものであったのだが・・なぜか今は大きく見える

魔物の右腕が翻り、大地を割るが・・その破片を受けながら、シオンはなおも怪物に向かって歩いていく


「し・・シオン!」

「シオンさん!!」


今度の攻撃は直撃コース・・ダメだ、シオンが・・・・!!


ごっ・・・・・!


「シオーンッ!!!」


レストを含めた何人かが、彼の名を呼んだ

魔物と格闘していて余裕のない者も、その音から彼がどうなったかを案じる


しばしの間・・・・

レストとユーリィが立ちこめる砂煙の向こうを見ると・・・

シオンは、まだその場に立っていた

彼の真横には魔物の切り落とされた腕が落ちている


「・・へっ・・・任せろと言っただろ?」


彼の右手には剣が握られていたが、それはラウルから渡された短剣ではなく、あの「鞘」だった

いや・・それは「鞘」にラウルの短剣が「握り」として装着された、巨大な剣であった


「・・シオンさん・・?」

「心配するなユーリィ・・・すぐに片づけてやるよ!」


とてもそれが巨大な剣であるとは思わせないほど軽く、シオンは得物を振り回す


「レスト!俺はいいからとっととそっちのザコ共を叩っ斬れ!!」

「わ・・・わかった!!」


振り向きざまに見えた彼の顔はにこにこしていたフニャフニャの男ではなく、凛々しく勇敢な騎士のものだった

目つきは鋭く、とてもナンパをしてチャラけているような男ではない

・・シオンさんのあの変わりよう・・どういうことなんだろう・・


「ユーリィ、考えている暇があるなら回復を優先してくれ!」

「あ・・う、うんっ!!」


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残りの魔物の数が少なくなってきた頃・・レストはそれに気付いた

例の大きな魔物の腕が再生し、その強大な力をさらに倍増させている事に


「シオン!」

「心配するな!」


段々と素早くなってくる攻撃をかわしながら、シオンは法術を数回唱えた

「混沌の力・七つの迅雷!」
「輝く一閃・気高き疾風!」
「天つより来たれ・竜の炎!!」



三つ目のその呪文で、敵は炎に巻かれたのだが・・・

すぐに炎は弾け、辺りに魔物の咆吼が再び響く!・・


「ダメか・・ちッ!!」


シオンは舌打ちをすると・・・覚悟を決めた


「せっかく用意してくれたラウルには悪い事だが・・仕方ねぇな!」


鞘が・・いや、剣が鳴動を始める

シオンのペンダント・・例の、妙な紋章の刻まれたものが光り輝く!


「"夢"へと還れ。」


皆がその光に見とれ、魔物も一瞬怯む!


「輝く刃よ・・夢幻の如く!」


極限まで大きくなった光は剣を拡張し、本来の大きさから一回り大きくなった剣が魔物を切り裂く!


「グァァァァォォォォォォォォ・・・・!!!!」

断末魔が響く・・・

剣に焼かれる魔物の炎に、シオンの影が照らし出される


剣を横に振るい、炎を払うようにしながら振り返るシオン

逆光になった彼のその顔は・・またいつものにこにことした微笑みだった。

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翌朝・・闘技場周囲の復旧が始まった頃・・

あの後シオンは突然倒れてしまい、今は自室のベッドに運ばれ・・今も眠っている


「シオン・・あいつは一体・・」


レストはシオンの部屋の前で、壁にもたれながら昨日の事を思い出していた

突然人が変わったようになって、妙な剣を使い初めて、やたら強くて・・・


・・ま、助けてもらったようなものだ・・感謝するぞ、シオン・・


普段の言動からは思いも寄らないが、素直に感謝しているレスト

感慨に浸っているとき・・ふらっ・・とユーリィが現れた


「んわっ!?」

「・・おはようございまひゅ・・だんひょう・・・・」


くかー・・と寝息を立てるユーリィ

見ればまだ、パジャマ姿で枕を小脇に抱えている


「・・・起きろ」


額を指でこづいてやると、ユーリィは再び寝ぼけ眼の目を開けた


「ふわぃ・・起きてまふよぉ・・・・・・」

「・・シオンの様子を見に来たのか?・・・まだ寝てるぞ」

「・・くか~・・・」


・・お前もか・・


レストはなんだか、どうでもよくなっていた

珍しい気分だ、いつもプライドとか騎士団長として・・とかの建前にこだわっていた彼としては・・


・・お前を勧誘したのは、正解だったようだな・・・・シオン・・


謎の男、シオン=カーライル

「愛の騎士」と名乗った男は・・とんでもない男だが、悪いヤツではない

レストは口元に笑みを浮かべ、その場を去った


「ユーリィ、君がこんな早くに僕の部屋を訪ねてくださるなんて・・感激です♪」

「ふへ・・」


・・後ろからそんな会話が聞こえてきて、レストは立ち止まる

見ればシオンがユーリィの手にキスをする瞬間だった


「・・って何をしてるんですかシオンさんッッ!?!?!?」


別にイヤとかではないのだが、突然の事で廊下の壁際まで退いてしまうユーリィ

・・今の一瞬で目も覚めてしまったようだ

対するシオンはにこっ・・と笑って


「そりゃ・・・挨拶ですよ♪」

「こ・・ここここ、こんな・・・あ、あたしこーいうの慣れてないんですっ!!」

「なら、明日から毎日でもご挨拶に伺いますよ」

「っ・・・」


顔が真っ赤になるユーリィ


「心配して見に来てくださったんでしょう?・・・大丈夫ですよ、あの剣を使うと疲れるってだけですから」


シオンは軽装だったが、手元には例の「鞘」があった


「何なんですかそれ・・昨日はラウルの剣が・・って・・あれ??」


ラウルの短剣・・それが、黒ずんでスミのような鈍い輝きになってしまっている

ユーリィがそれを鞘から取り出そうとすると・・ボロボロと粉のようになってしまった


「あ・・?」

「やっぱりこうなっちゃうんですか・・ラウルになんて言いいましょう・・(汗)」

「あの・・シオンさん?・・・あなたは何者なんですか?・・あの剣といい、突然喋り方が変わったりといい・・」

「?・・・僕ですか?」


困惑するシオンだが、ユーリィの質問に妖しげな目つきで答えた


「ですからご覧の通りの・・「愛の騎士」ですよ・・♪」


ばたん


レストが廊下の端で、ぶっ倒れた

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早朝集会のあと(やっぱり忘れないレスト)

シオン、レスト、ユーリィ、サイブラスの四名は王の元へ呼ばれていた

広い王の間の段上で、セルムラント王「アルガス=フェイル=セイリアム」が初陣と勝利を讃えた


「これ以上なきお言葉、ありがとうございます」


レストがそれに答え、続いてサイブラス、ユーリィも敬礼のように挨拶をする


「シオン=カーライル」

「はい・・」


うつむき加減でシオンが答えると、王はリオ姫をその場に呼んだ


「私ではなく、リオが一言申したいと言っておるのでな」


無言のままシオンの元へ降りてくると、リオは片膝の姿勢の彼の前に立ち、言った


「此度の戦果、見事であったぞ・・妾はお主が気に入った、今度話の相手をいたせ」

「・・もったいなきお言葉で・・」


シオンは突然リオ姫の小さな手をとると、目線を真っ直ぐ合わせて言う


「その時は是非、愛について語り合いましょう」

「こンの無礼者めがぁぁぁぁーっっ!!!」


レストのガントレットが後頭部を直撃し・・シオンはその場に沈んだ(笑)

しかし姫は「洒落のきく男だ」と楽しそうに笑っていたという

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朝食をとりにいつもの食堂にいたシオンとユーリィ

周りには包帯を巻いた騎士団のメンバーもちらほらといて、時々彼に礼を言いにくる者もいた


シオンはいつものようにジャムトーストを食べている

ユーリィと楽しく話をして・・そういう朝のひとときだった


ばたん・・と、また入り口のドアが勢いよく開閉する


・・またレストか?・・と思ったその時


「シオンさん!!!」

「・・ぶぁい?」


パンを食べている途中なのでもごもご言いながらシオンが声に答える

入り口に立っていたのはレストではなく・・ラウルよりちょっと大きいくらいの少年だった


「俺を弟子にしてくださいッ!!」

「ヤですよ」



またも即答のシオン

少年はぽかーん・・とあっけにとられた顔をしていたが、表情を引き締めてもう一度言った


「お願いです!俺を・・」

「・・僕弟子とか取れる立場じゃないですし、人に教えるような事は不得手なもので・・」

「お・・俺も・・」


少年はぐっ・・と右手に力をこめて、シオンの元に近づき・・・

皆が注目する中、その一言を口にした


「俺もあなたのように愛を語りたいんですっ!!」


ずどっ!!


その場にいた一同がコケる中、シオンだけはトーストをゆっくり飲み込み・・

口をナプキンで拭いて、にっこり笑いながら答えた


「そういう事なら、OKですよ」


がらがっしゃーんっ!!

再びコケる一同


「・・し・・シオンさあぁん・・・(汗)」


・・やはりこのひとは何を考えているのかわからない・・

ユーリィはそう思うのだった。

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予告

ロート「というワケで弟子入りしました、ロートス=アルバ=トーマス・・ロートです!」

ユーリィ「・・はぁ・・(汗)」

ロート「ユーリィさん、これからよろしくお願いします!」

ユーリィ「・・・・・・はぁぁ・・・(汗)」

シオン「ではまずは基本姿勢からです・・目線を合わせて、こう手をとりながら・・」

ロート「こう・・ですか?」

シオン「そうそう、そして後は言葉を学べば問題ないハズですよ」

ユーリィ「シオンさんにロートくん・・二人とも何を考えてるのかわからない・・(汗)」


困惑するユーリィをよそに、弟子としてロートを迎えたシオン

彼は「愛の騎士」として騎士団入りするため、シオンと共に修行に励む!(笑)

再び街に現れた魔物に対して、ロートは修行の成果を発揮することができるのか!?


次回・・

  「SECOND FIGHT -行くか行かざるか-」


レスト「・・あの修行って・・魔物に対抗するためのものなのか?(汗)」





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